このゆふぐれの 匂ふまで
「燈(ひ)をつけず
このゆふぐれの匂ふまで
坐りゐたれば朴(ほお)の花咲く」
さくらの花びらが風に舞うころ
奈良・吉野の歌詠みとして知られ、
独自の自然観に立った
スケールの大きな歌を作り続けた
歌人の前登志夫(まえ・としお)さんが
亡くなった。
代表作品
『子午線の繭』
かなしみは明るさゆゑにきたりけり一本の樹の翳らひにけり
地下鉄の赤き電車は露出して東京の眠りしたしかりけり
夕闇にまぎれて村に近づけば盗賊のごとくわれは華やぐ
暗道(くらみち)のわれの歩みにまつはれる蛍ありわれはいかなる河か
『霊異記』
この父が鬼にかへらむ峠まで落暉(らつき)の坂を背負はれてゆけ
さくら咲くその花影の水に研ぐ夢やはらかし朝(あした)の斧は
狂ふべきときに狂はず過ぎたりとふりかへりざま夏花揺るる
『縄文記』
三人子(みたりご)はときのま黙し山畑に地蔵となりて並びゐるかも
みなかみにいかだを組めよましらども藤蔓をもて故郷をくくれ
(いかだは漢字表記)
『鳥獣蟲魚』
山住みの一日はつねに一首にておのれの首を祀れるごとし
『青童子』
杉山に夕日あたりぬそのかみの蕩児のかへり待ちて降る雨
(平成19年「短歌」月刊誌 大特集 前登志夫 参照)
by kobusi74k
| 2008-04-07 09:54
| 歌人の前登志夫さんが