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このゆふぐれの 匂ふまで




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「燈(ひ)をつけず

このゆふぐれの匂ふまで

坐りゐたれば朴(ほお)の花咲く」


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さくらの花びらが風に舞うころ 

奈良・吉野の歌詠みとして知られ、
独自の自然観に立った
スケールの大きな歌を作り続けた
歌人の前登志夫(まえ・としお)さんが
亡くなった。


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代表作品

子午線の繭
かなしみは明るさゆゑにきたりけり一本の樹の翳らひにけり 

地下鉄の赤き電車は露出して東京の眠りしたしかりけり      

夕闇にまぎれて村に近づけば盗賊のごとくわれは華やぐ      

暗道(くらみち)のわれの歩みにまつはれる蛍ありわれはいかなる河か 
 
霊異記
この父が鬼にかへらむ峠まで落暉(らつき)の坂を背負はれてゆけ

さくら咲くその花影の水に研ぐ夢やはらかし朝(あした)の斧は 

狂ふべきときに狂はず過ぎたりとふりかへりざま夏花揺るる 


縄文記
三人子(みたりご)はときのま黙し山畑に地蔵となりて並びゐるかも

みなかみにいかだを組めよましらども藤蔓をもて故郷をくくれ
                  (いかだは漢字表記)
 
鳥獣蟲魚
山住みの一日はつねに一首にておのれの首を祀れるごとし
 
青童子
杉山に夕日あたりぬそのかみの蕩児のかへり待ちて降る雨



     (平成19年「短歌」月刊誌 大特集 前登志夫 参照)


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